interview
story of kobitonokoya moana nursery
Co.lab
代表取締役 原 大祐
NPO法人もあなキッズ自然楽校
理事長 関山隆一
ローカルエリアの豊かな暮らし

2021年4月、大磯郵便局の遊休資産を活用して、新たに誕生した2つの空間。
WORK “働く”と CHILDCARE “保育”、この二つがつながることで
次の時代のためのローカルエリアの豊かさに取り組む二人が、
開設までのプロセスについて語り合いました。

場所:小田原某所 茶畑にて
インタビュー実施日:2021.5

PROFILE

イラスト
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関山

関山 隆一/ NPO法人もあなキッズ自然楽校 理事長

1971年神奈川県生。1998年ニュージーランドに渡り国立公園にて現地ガイドとして働く。その後パタゴニア日本支社を経由し、2004年に帰国後アウトドアオペレーターの事業を立ち上げ、2007年NPOもあなキッズ自然楽校設立。2009年に森のようちえんスタイルの保育園を開園。0歳児から小学生までの自然体験活動を実践している。
NPO法人森ようちえん全国ネットワーク連盟 副理事長 東京都市大学 人間科学部児童学科 非常勤講師

原

原 大祐/ Co.Lab 代表取締役

1978年生まれ。神奈川県大磯町在住。漁村農村お屋敷まちが混在する大磯に惹かれ、地域資産をいかした暮らしづくりを実践中。地域のインキュベーション(県下最大の朝市「大磯市」の運営)、6次産業化(漁協直営の食堂プロデュース、加工場の運営)、里山再生(コミュニティ農園「大磯農園」の運営)、空き家空き店舗再生(カフェ、立ち飲み、本屋、雑貨店運営)、働き方改革(森のようちえん併設コワーキングスペース 「Post-CoWork」の運営)などローカルエコシステムの再構築に取り組んでいる。
Co.Lab 代表取締役|NPO法人西湘をあそぶ会 代表理事|湘南定置水産加工 代表取締役|関内イノベーションイニシアティブ 取締役|神奈川県住宅供給公社 団地共生プロデューサー(2016年〜)

二人の出会い:

関山: 原さん、今日はよろしくお願い致します。
毎年お誘いいただいている、小田原での茶摘みをしながらの対談インタビューとなりました。笑
この季節は本当に新緑が気持ちいいですよね。

原: はい、よろしくお願いします。
本当にいい気候ですよね。県西エリアは、自然が豊かですから。

関山: 先日、大磯町の小規模認可保育園“もあな・こびとのこや”の移転が終わり、新年度の園児を迎えることができました。また地域に開いたコワーキングスペースとしての “Post-CoWork”も同時期にスタートしましたね。準備から改修、そして引っ越しまでと本当にお疲れ様でした。

原: いやいや、足掛け3年ですね。いよいよ、オープンということでやっと肩の荷が降りたところでしょうか。長い間、ご準備本当にお疲れ様でした。

関山: 大磯郵便局の裏にあった遊休資産である空間に引っ越しをして、改めて再スタートをすることになったのですが、その経緯やどんな想いで場を作ってきたのかを、改めて言葉にしてお伝えできればと思いまして、お時間いただきました。

早速なんですが、まず最初に少しこのプロジェクトの前段の部分をお話しをさせていただくと、原さんが手掛けられていた大磯のソーシャル雑居ビル「OISO 1668」の一階に、町の認可保育園としてもあなキッズ自然楽校の“もあな・こびとのこや” をオープンさせていただいて。それが2015年春ですね。それが、2021.4月に新たな場所に移転してきたというのが現在ですね。

原: そうですね、2015年でしたね。 そう考えると、本当にあっという間ですね。
関山: 原さんとお会いしたのは、横浜のコワーキングスペース&シェアオフィスの「 mass×mass | 関内フューチャーセンター」がきっかけでした。あれは、どんなプログラムでしたか?

原: そうですね、代表の治田さんにお声掛けいただいて、厚労省の社会福祉推進事業の社会的企業の調査研究でお会いしたのが最初だと思います。その研究会のメンバーとしてお会いしたのが最初だったかと。: https://social.massmass.jp/member.html#members

関山: そうでしたね。懐かしい。

photo1 :インタビューの前半は茶畑にて、お茶を摘みながら。後半はコワーキングスペース「Post-CoWork」に移動しての対談に

原: そこで、横浜を拠点に“森のようちえん”の事業を手掛けられている関山さんの取り組みを知ったのが僕にとっては最初です。北欧のスタイルの保育ってどんなものなんだろうと興味を持って。

関山: 2013年くらいでしょうか。それから僕も原さんたちが手掛ける大磯市に来るようになって、少しずつ大磯に遊びに来るようになったんですよね。

そこから、大磯町に「森のようちえん」についてプレゼンをする機会をいただいたり。気がついたら大磯町から待機児童問題を相談されて、もあなキッズ自然楽校として、大磯町に園をつくるということになりました。

原: 当時から「OISO 1668」の2Fでコワーキングスペースを運営していたんですけど、一階にあったイタリアンレストラン「オステリア イル チエロ」が小田原に移転するタイミングだったんですよね。偶然も重なって「OISO 1668」の一階に“もあな・こびとのこや” に入っていただいて。

関山: 新しい土地で保育園をやる場合に、地域のコミュニティとの接続が大事だなと思っていたんです。特に“森のようちえん”では毎日子どもたちが地域に出て散歩をするスタイル。横浜では都筑区の豊かな緑道を軸に子どもたちが自然と触れ合って遊んでいるので、大磯でも地域性とかコミュニティというものと近しい保育園をやれたらと思っていました。

だから、大磯農園(里山の荒廃農地を再生させて、週末農的暮らしを楽しむプロジェクト: https://select-type.com/s/?s=ISTQ1TZKHf8)や大磯市(200もの地域出展者が集う県内最大の朝市:https://www.oisoichi.info/)をやっている原さんたちとの出会いが入り口だったことで、森のようちえんのイメージを描くことが出来たのは、我々にとっても本当に良かったんです。

原: 僕はみんなから何やってる人ですか?ってよく聞かれるんですけど。笑 
シンプルに、慣れ親しんだこの大磯の風景を少しでもそのまま残して行けたらいいなと思っていて、そのために大磯市をやっているし、NPO法人西湘をあそぶ会で「大磯農園」もやっているんですよね。コワーキングもそうで、当初から大磯に住んでいても働く場所は東京や横浜に通う人が大半で。
日中は高齢者と子どもたちしか残らない、そういう街だと、さまざまなビジネスも立ち行かないだろうと。外に働きに出ている人を町内にとどまらせたいなと。

そして大磯にもっと子育て世代を増やしたいと思っていたんです。関山さんたちの「もなあキッズ自然楽校」の“森のようちえん”スタイルの保育園が来ることで、子育て世代の方々がわざわざあそこに通わせたいと思う人たちが、大磯の町を選んでくれたら嬉しいなと思っていました。

photo2 : ソーシャル雑居ビル「1668」の当時の様子。元歯医者だったビルをリノベーション。1Fに「こびとのこや」(左)、2Fにコワーキングスペース(右)、3Fはオーガニックカフェ「willd」があった。

郵便局の遊休資産を活用した施設:

関山: 今回の日本郵便の遊休資産を使うという話はそもそもどういう経緯でこうなったのか。その辺りを原さんに聞かせていただけたらと。

原: そうですね。3年ほど前に、僕のところに日本郵便がヒアリングに来たことが最初にきっかけですね。その時は、大磯市や大磯農園を手掛ける人として、街の地域課題について話を聞きたいということでした。人口減少や高齢化を抱える、他の日本のエリアと同じ課題感を共有しつつ、その中で大磯もお店がどんどん減っていると。僕らも市を通じてお店を増やす努力を続けてきたけど新しくお店ができても大磯はなかなか厳しいとみんな言ってて。じゃあなぜか、それはやっぱり働く世代が東京・横浜に通っていることだよねと。日中に人がいない。その働き方を変えるのに、コワーキングは有益だろうと、そういう話をしたんですよね。

関山: なるほど。

原: それからしばらくして、改めてお越しいただいた時に大磯郵便局の遊休空間について相談があり、一緒に何か考えて欲しいというような展開になりました。

関山: そうでしたか。

原: そもそも『こびとのこや』を移転するということは想定していなくて、町としての待機児童を解消したいという要件もあって、移転に伴って収容人数を拡張できるという話が出てきたので、検討をはじめたという流れでしたね。

関山: そうですね、そういった偶然が重なっての移転でしたね。当初この企画が検討されたタイミングでは、covid-19の世界的な流行はなかったわけですね。そう考えると、日本の社会全体はもちろん、ローカルエリアでの働き方も、本当に大きく変化しましたね。

photo3 : こびとのこやの内装。左が倉庫として使われていた時の写真。右が旧三井邸の古材を活用した内装の写真。腰壁には屋久杉の天井材が使われ、窓にはステンドガラスをあしらった。

デンマークの暮らしと職住近接:

原: そうですね、コロナによって当初考えていたライフスタイルが10年早回しされた感はありますよね。

当初から、コワーキングスペースと保育園が近くにあることで、子どもを保育園に預けて、そのまま仕事をして、迎えの時間まで仕事して子どもを連れて家まで帰る。そんな暮らしを描いてましたから。

大磯だったら、東京だったら片道1時間、往復2時間は最低でも通勤に使わないといけない。もちろん読書や勉強なんかをする時間に使えますけど、その2時間で子どもと一緒に遊んだり、地域の集まりに出たり、買い物行って一緒にご飯作ったり、職住近接によって生活の質は断然高くなると思うんですよね。

以前の『OISO 1668』でも、コワーキングと保育のコラボレーションは出来ていましたが、今回の移転でコワークは面積は倍以上になっていますし、駅から近くアクセスもしやすい場所になっています。本当の意味で、町に暮らす方々にとってのインフラになれたらと思ってます。

photo4 :5月の新緑の季節。お茶を摘みながら、様々なテーマで語り合いました。

関山: そうですね。原さんとよく話すエピソードで、保育事業の視察で行くデンマークの話がありますよね。週に37時間という労働時間の制限があるデンマークでは、朝9時出社したら夕方4時には帰れる。仕事終わりにヨガやスポーツクラブに通って、帰って夕食作って家族で食べる。

視察先でも、夕方になるとみんなさっさと帰っていく笑、とってもいい暮らしをしているなと。

原: 日本は労働生産性が他の先進国と比べても低い。無駄にダラダラ働くより、労働時間を制限して、その分仕事と暮らし(遊び)にメリハリを出すのは、いいと思うんですよね。

結局何のために働いているのか?本当は家族と一緒に過ごす時間が多くて、子どもたちや親の世代と一緒に語らう、イタリアの田舎町に行くと夕方からレストランは家族3世代がわちゃわちゃしている。いつの間にか”生きるため”に働いていたのが、“働くために”生きている、そんな気がしますよね。

デンマークのその暮らしのあり方を聞いて、やっぱり何か日本という国が持ち合わせていないものさしを感じます。少なくとも、今回の『Post-CoWork』と『もあな こびとのこや』を活用して、少しでもそういう問題意識を解決したい人たちが大磯に住みたい、そんなふうに思ってくれたら嬉しいなと。

関山: 本当にそうですね。今は国の制度で共働き世代を応援するために、1日の保育時間が伸びていってます。それは働く世代にとっては必要なことだと思いますが、本来は保育の預かり時間は短くて良いのが理想ですよね。

お父さんお母さんともに、夕方には仕事を終えて一緒に過ごす。それが本当の意味での“サスティナブル”な社会のあり方だと思います。

歴史・文化を紡ぐ、あたらしく古い園舎:

関山: 今回の「こびとのこや」の園舎ですが、ご覧いただくとわかるのですが、古材を活用した素晴らしい園舎になりました。この園舎のストーリーについてもぜひご紹介できればと。

原: そうですね。今回「こびとのこや」の園舎の大多数の建築部材は、2003年まで現存していた旧三井守之助別邸を保存していた大磯遺産保存会のみなさんに多大なるご協力をいただきました。

大磯は明治中期から昭和初期にかけて、政財界人が数多く別荘を構える場所として歴史があります。ただ、戦後から現在までで数多く存在していた邸宅の数々は取り壊され、分譲されて、現在ではそのほとんどが失われてきていて。そういった建物はその時代性を表すだけでなく、今同じような建物を建てることはほぼ不可能なほど、和洋折衷の独自性、そして匠の技術が使われている建物が多いのも特徴です。そういった歴史的建造物は、町の資産といってもいいと思うんです。壊してしまったら、永久に元に戻せませんから。

湘南・相模湾地域にある、歴史的建築物の保存再生に取り組まれている組織「邸園文化調査団」の方々が、マンションの開発計画が持ち上がった際に旧三井守之助別邸の一部を保存していたものを、今回大磯のみらいを担う子どもたちのためならと、活用に許可をいただき、保育園舎の空間に全面的に使用させていただきました。

photo5 : (左)こびとのこやの内装。左は旧三井邸の天井材だった屋久杉を使い腰壁に。(右)エントランスや扉には随所で使用されていたステンドグラスを再利用している。

関山: フロントの看板はもちろん、エントランスの扉にあるステンドグラスなど、風格もありながらとても可愛らしい建物になりました。もあなキッズ自然楽校は“森のようちえん”のスタイルをとっているので、毎日外に遊びに行きますが、園舎は国産材を使った木質化を進めてきていて、今回は地元大磯の歴史的な建物の部材と合わせて、とても素晴らしい出来栄えですよね。

原: そうですよね。もあなキッズの内装や熊澤酒造の建物を数多く手掛けられているKEMURIデザインワークスの和田さんがまた古材をうまくアレンジしてくれていますから。

関山: 室内の腰壁は元々天井に使われていた屋久杉を活用されていて。今回、私たちの園舎に使わせていただけたのは本当にラッキーでした。ありがとうございます。

原: 保存会の皆さんも、本当に喜んでいただいてます。やはり倉庫の中で眠っているより、毎日子どもたちの笑顔や笑い声の中で、思いっきり活用していただいた方がいいですよね。
自分も2003年の保存運動に署名もしていたので、まさかこうやって20年後の活動に繋がるなんて、あの時は思いもしませんでした。

関山: 原さんにとって、その原体験が元で昔ながらの大磯の風景を残したいと感じたターニングポイントだったわけですよね。

本当にご縁に感謝しております。これからも街の財産を継承する上で、地域に根ざした保育を行っていきたいと思っています。

photo6 : こびとのこやの看板も趣のある古材を使い、アイキャッチに。左右が大磯の海を見続けてきたベイウインドウと呼ばれるステングラス。戸棚の扉も古材ならではのデザイン。

あらためて、これからはコミュニティの時代:

関山: 今回原さんが出掛けたコワーキングスペース「Post-CoWork」は、郵便局の裏にあるということ、それと今あるコワーキングスペースの進化版という意味もあるんですよね。その辺の意図を聞かせてください。

原: そうですね。いろいろあるんですが、まずは“働く”というためだけの場所にはしたくなかったんですよ。ここに仕事をしに来るんだけど、それは1つの目的であって、全てじゃない。

たまたま家で使っていない卓球台があるというので、友人から借りてきてラウンジの中央に置いたんですけど、あとはサーフボートが置けるロッカーがあったり、サウナとシャワーも付けたんです。それも、やっぱりここで集う人たち同士が仕事以外でも趣味を共有したり、遊びを共有することで自然とつながりが生まれる。最近よく言われている“ウェルネス”という言葉があるように、幸せに生きる上で「働く」ことと合わせて「健康」でいることはもっと大切ですよね。

せっかく、海や山があって、里山の環境もある大磯で暮らすんだったら、みんなでその自然環境をもっと楽しんで、この環境そのものを享受していくことが大切だと思うんです。

photo7 : Post-CoWork入ってすぐには卓球台。奥がラウンジ空間。出社したら左のキッチンでコーヒーを入れるスタイル

関山: なるほど。

デンマークも世界一幸福な国と呼ぶ人もいるそうなんですが、「well being」:意味「より良く生きる | 幸福 」、とはどういうことか? 身体的・精神的・社会的に良好な状態、全てが満たされた状態のことをいうそうです。

これからは自分が育った街や自然環境、そういった五感で感じることも、幸福を感じる上で大切になってくるでしょうね。そのためには、それらの環境をしっかり感じる時間や、遊ぶことも大事ですよね。

原: 例えば同じコワーキングのメンバーに、農業に詳しい人がいたり、サーフィンに詳しい人がいたり。全部自分で極めていくのは難しいけど、同じエリアに暮らしている仲間がコツや遊び方を教えてくれたら、ちょっとずつ学んでいけるしコスパもいい笑。さらに、仕事帰りにふらっと立ち寄れる地元の飲み屋で時間を過ごしたり。ローカルエリアの暮らし方がもっと、豊かになっていくことが、日本の未来を明るくする方法なんじゃないか。
それくらい本気で思ってますから笑

photo8 : 集中ブースの横にはサーフボートを置くロッカー、そして併設の施設にはサウナとシャワーもある。

関山: そういう大人たちと触れ合っていれば、子どもたちも自分たちが暮らす街の魅力を思いっきり感じながら大きくなっていけそうですね

原: この町で育った子どもたちが、大きくなってから改めてこの町のことを好きと言ってくれたら、このプロジェクトも成功と言えるのかもですね。

関山: もあなキッズ自然楽校も今では、小田原、茅ヶ崎と保育事業を展開するきっかけとなった大磯ですから、今回の移転を機にもっともっと地域とつながる保育園にしていけたらと思っています。

これからも引続きよろしくお願いいたします!
今日はありがとうございました。

原: ありがとうございました。

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